リリース方法について

皆さん、閲覧ありがとうございます。コミュニティ代表の 上杉一臣 と申します。
ここ数年、アカメのシーズンになるとリリースの仕方、注意点などのご質問を受けることが増えてきました。
これは初めてアカメ釣りにチャレンジする方が増えてきたことと同時に、アカメに憧れ真剣に挑みたいという方々の気持ちの表れからだと感じています。
この場をお借りしまして、恐縮ですがお話させて頂きたいと思います。


まだまだ試行錯誤の最中でもあり、今まで経験し学んできたことからの私自身の考え方となりますので、決して強制をするものではございません。
これからアカメ釣りを始められる方々に、少しでも参考になれば幸いに思います。
内容的に、ちょっと長文になります。ご了承ください。

アカメと私

二十年ほど前、アカメの飼育展示で有名な桂浜水族館に飼育実習生としてお世話になったのがきっかけとなり、釣りや人生の師匠となった(故)堀内 誠氏(同館飼育研究員、当時の日本動水協・生物多様性委員会 種別調整者<アカメ担当>)にアカメについて六年間学びました。
その後、堀内氏が病でご逝去され2年ほど経った頃、ダグチロギルス症という寄生虫による疾患が原因でアカメの個体数が著しく減少し、水槽内にほとんどアカメが居ない状態にまで落ち込んでしまいました。

このままでは堀内氏が人生をかけて成し遂げたアカメの飼育展示が失われてしまうと危惧し、私はアカメ釣りを始めました。
同時に水族館の許可を受け、釣り場で会う釣り人にアカメの提供を呼びかけ、真夜中に連絡を受けては水族館へ搬送する作業に努めました。

当時、まだ最もコアなジャンルであったアカメ釣りです。
釣った場所、ヒットルアーなど情報は全くと言って良いほど出なかった時代に、釣ったアカメをくださいとお願いすることは非常に気を使うことでした。
しかし、その無理なお願いに快く応えてくれたアカメ釣り師の皆さんのご協力のおかげで、十分な飼育個体数を確保することができました。

水槽内の健康状態が完全に安定するまでに、五年という期間を必要としましたが、嬉しいことに現在も水族館へ行けば、アカメの群泳を見ることができます。
その後「アカメと自然を豊かにする会」の活動の一つであるアカメの標識放流(タグ&リリース)にシフトして現在に至ります。

アカメという魚について

釣り人から譲り受けたアカメを、水族館のバックヤードに設置されている予備水槽に運び入れます。
その際にエルバージュ(細菌性魚病用薬剤)を投薬します。スレなどの傷から感染症にかかるのを防ぐ為です。傷付き方の度合いにもよりますが、魚の体力が十分である場合大半が回復へと向かい、ピカピカの美しい魚体に戻ります。

こんなこともありました。ある時、外傷が酷く回復に時間が掛かっていた個体がいました。
このまま長引くと危険だと感じ、対策に悩んだことがあります。
ふと、思いついたことですが海水での治療から、完全淡水の薬浴治療に切り替えてみたらどうだろうか!?(基本的に、外洋から汲み上げた海水をろ過して使用しています。)
早速試してみたところ、急速に回復へと向かったのです。
偶然にも一つ新たな方法を見つけた瞬間でした。しかし残念なことに、中にはダメージが大きく救えなかった個体も複数居ます。

アカメの外傷に対しての回復力は目を見張るものがありました。
傷ついた個体を観察していると、体を覆う粘膜の分泌量が増加していくことが分かります。
ウロコが剥がれ体を守るバリアが崩壊した状況下で、細菌やウイルス、寄生虫などからの攻撃に耐える為の非常用バリアと言ったところでしょうか。
その分泌量は他の魚に比べ多い様に感じます。アカメが重い外傷にも耐えることができる、優れた機能の一つではないかと感じています。
投薬治療ができる水槽内はまだ良いでしょうが、これが細菌や寄生虫に直接晒される自然環境内だと、極めて過酷な状況であることが想像できます。

治療用水槽に収容した時には問題なく見えた魚体も、2~3日もすると見えなかった傷ついた部分が白っぽくなってきます。
 軽い傷ならそれほど悪化することなく完治に向かいますが、ダメージが大きいと次第に白かった部分が真っ赤にただれてきます。
傷みの酷いヒレの先端部は白くなった後に、その白い部分が脱落してヒレが短くなっていくこともありました。見るからに痛々しい姿になってしまっても、アカメに「気力」と「体力」があれば結構な確率で回復へと向かいました。
  
 頑丈なアカメにも弱点はあります。口の大きな魚は酸欠に弱い傾向が見られ、アカメも例外ではありません。エラへのダメージは酸素を上手く取り込めなくなり、非常に危険です。

もう一つは目に見えないダメージです。主に体内での内出血などで、これも軽傷なら回復することもあるでしょうが、重い症状の場合は生きていけません。
魚を持つ場合には、出来るだけ内臓の無い部分を持つように心がけています。
お腹の部分にはしっかりとした骨格が無いため、外部からの圧力から内臓を守ることができません。

 大型の魚ほど体は重く、掛かる負担も大きくなります。エラの損傷や内出血によるダメージは、アカメが復活する為に重要となる「気力」、「体力」を奪います。
それに気付いてからは、最も気を使うようになりました。

 私は水族館の職員ではないので、毎日アカメの傍に居たわけではありませんが十数年の間にアカメの搬送、飼育、傷ついた個体のケアなどを学ばせてもらいました。
その後に取り組んでいる標識放流活動にも、水族館での経験が役立っています。

アカメはキャッチ&リリースが大変有効な魚であると思います。これは今まで行ってきた標識放流の成果などからも伺えます。
詳しくはホームページ アカメの国の「アカメ調査室」の項目をチェックしてみてください。

アカメをキャッチしてからリリースまでの流れ(私の場合)

 直接お会いした方には、既にお話したことがあると思います。アカメが大きいほど当然その体は重くランディングが大変なので、自分が水面に近くなる足場の低い場所、できればウェーディングしての釣りを心がけています。

激しいファイトの末に体力を使い切ったアカメを浅瀬へ誘導しランディングします。まず、フィッシュグリップで下アゴを掴み、必ずプライヤーを使いルアーのフックを外します。(突然暴れてフックが自分に刺さらないように)

フックを外したら、ストリンガーを下アゴの膜の部分に穴をあけて通します。(ロープなどをエラへ通すのはNGです。(エラを傷つけてしまう為。)

すぐに蘇生に入ります。口を拡げエラに水を通してあげてください。クタクタに疲れた状態ですので、自力で体を起こせない場合は軽く手を添えて(魚体が傷付かない程度に)アシストしてあげてください。次第に各ヒレを動かし自らの力で体制をキープできるようになります。そうなれば、少しロープを伸ばしてアカメが落ち着くところで休ませます。
その間に写真撮影の準備をしながら、自らの呼吸も整えます。特に初めてのキャッチの場合、自身も興奮のあまり酸欠になりがちです(笑)。この間、しっかりとした強度を持ったストリンガーで繋いでないと、逃げてしまうことがあるので要注意です。(ストリンガーを外して逃げられた話は絶えません。)

 サイズを測る場合、魚体が出来るだけ傷付かないように、摩擦の少ないブルーシートの使用をオススメします。
 アカメの体力が戻ったところで、シートを濡らしゆっくりとアカメを手繰り寄せシートの上に寝かせメジャーで計測します。デザイン魚拓を作りたい場合は、できるだけ迅速に魚全体、頭部のアップ、胴体のアップ、尻尾のアップ、各ヒレのアップの写真を撮り、アカメを再び水中へ戻します。

 次は、自分も入水しアカメと記念撮影です。写真を撮ってくれる優しい仲間がいるので釣れた時は甘えさせてもらっています。水に入ることでアカメへのダメージが少なく済むことに加え、撮影の瞬間だけ持ち上げれば良いので魚の重さからも多少なり解放されます。水に入れない場合は弱らない様に急ピッチで撮影する必要があるので、入れる場所の方が気持ち的にも時間的にも余裕が持てるので楽です(特に綺麗な写真を残したい方にはオススメです)。

 アカメは大きいと非常に重量があり(80㎝後半で10㎏に達する個体も居ます)、グネグネ動いたりすると慣れない内は非常に持ち難い魚です。 持ち方の例としては、片方の手で下アゴの根本付近(一番厚みのある部分)をしっかりと持ち、もう片方の手で内臓の後端である肛門付近を支えます。この部分には、ちょうど尻ビレの最前列にある太く短い棘がありますので、くれぐれも怪我をしないように棘を畳むようなイメージで手を添えます。相手は生き物ですので、怪我をしないように慎重に行ってください。(ザラザラした歯や鋭い棘で怪我をしないようにグローブの着用をオススメします。)

撮影が終わったら、いよいよリリースします

 水中のアカメは大変美しく、何度見ても惚れ惚れします。その美しさをしっかりと記憶に焼き付け、釣れてくれた感謝の気持ちを胸にゆっくりと放します。

 悠然と泳ぎ去る姿を見ていると、色々な感情が駆け巡ります。なかなか釣れず、苦しかった日々のことや、壮絶だったファイト。アカメやフィールド、仲間への感謝の気持ちなど・・・。釣れる時は、あっさりと釣れてしまうアカメ。しかし大半は、なかなかヒットせず苦戦を強いられることが多いものです。一匹のアカメとの出会いで、全てが報われます。

 以上が私のキャッチからリリースまでの一連の流れです。この釣りにハマると、私のようにマニアックな方向に走る方も少なくありません。アカメのことを勉強し、経験を積むことでアカメの強さや弱さが少しずつ見えてきました。
アカメが他の魚に比べるとタフであるなら、尚更のこと丁寧に慎重に接することでリリース後の生存に「確かな自信」が持てる。そう考えるようになりました。

 アカメ釣りは特に、マニアックな釣りの代表格です。私以上にリリースに拘っている方も居ます。その理由として、アカメが持つ風貌、希少性、簡単には釣れない難しさなど、魔性の魅力を持った「奇跡の魚」であることが、自然とそうさせているのだと思います。アカメにどっぷりとハマった人には、知らない内に「アカメ愛」が芽生えているものです(笑)。

終わりに

 最後に一つだけ、気をつけて頂きたいことがあります。くれぐれも自らを危険にさらしてまでアカメを気遣うことは避けてください。
釣り場やその時の状況によっては、やりたいことが全てできないことも多々あります。事故が起こると大変です。ご家族や友人知人を、楽しいはずの釣りで悲しませてはいけませんし、そこで釣りができなくなっても困ります。
 無理がいかない範囲で、できることを一つでも二つでもやってあげればリリース後も生き延びていく可能性は拡がるはずです。

しつこいようですが、無理は禁物です。
安全に、楽しく、思いやりを持って、素晴らしい釣りを(^^♪
よろしくお願い致します。

アカメが私たちにもたらしてくれる恩恵には、「人と人との出会い」もあります。
同じ夢を持ち、同じフィールドに集い、共に感動を分かち合えるこの高知が、私は大好きです。
アカメ釣りが楽しめるこの素晴らしい環境を、皆さんと一緒に大切にしていきたいと思います。

大変長くなってしまいましたが、最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。

高知のアカメ釣りを未来へ残そう!!
              代表 上杉一臣

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